研究内容

前頭側頭葉変性症(FTLD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、その類縁疾患(FTLDスペクトラム)の病態機序の解明

認知症を含む多くの神経変性疾患は明確に区分できるものではなく、グラデーションを形成していると考えられています。たとえば、前頭側頭葉変性症(FTLD)は人格の変化や情動の障害が前景に生じることが特徴の認知症ですが、タウタンパク質の蓄積が認められる症例があり、タウオパチー(異常タウタンパク質が蓄積する特徴を持つ疾患の総称)のひとつと考えられています。一方でFTLDの一部には、運動ニューロン病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)と遺伝的、臨床的、病理的な共通性を持つ症例が存在し、ALSと同一の疾患スペクトラムを形成しているとも考えられています。

このようにFTLDスペクトラムと呼ばれる神経変性疾患群には、前頭側頭葉変性症(FTLD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)などの疾患が含まれます。これまでにFTLDにはALSとの疾患スペクトラム(ALS/FTLD)と4R-タウの蓄積を特徴とするタウオパチー(CBDやPSP)との疾患スペクトラム(FTLD-タウ)が知られていました。しかしながら、両者のスペクトラムに共通する分子メカニズムは明らかでありませんでした。

私たちはこれらの神経変性疾患には、考えられていたよりも多くの共通点があることを見出しました。海馬および前頭葉の神経細胞の核内におけるFUSとSFPQの微小局在と結合性について疾患横断的に病理組織学的、生化学的手法を用いて調べたところ、家族性および孤発性のALS、FTLD、PSP、CBDといった広義FTLD疾患スペクトラムにおいてFUSとSFPQの会合不全とそれに伴うタウアイソフォームのバランス異常を認めました。一方で、アルツハイマー病およびピック病では変化がありませんでした(Ishigaki et al, Brain 2020)。また、PSP、CBD、ALSの運動ニューロンにおいても、SFPQとFUSの相互作用の変化が観察され、他の神経変性疾患では観察されないことが明らかになりました。これらの結果は、PSPとCBDが運動ニューロン疾患の特徴も共有している可能性を示唆しています(Riku et al, Brain 2022)。

私たちの研究結果は幅広いFTLD疾患スペクトラムにおける共通の分子メカニズムとしてFUS/SFPQの会合異常とそれに伴うタウ遺伝子スプライシング変化が存在することを示唆しています。

academist journalの記事
https://academist-cf.com/journal/?p=14169