研究内容

FUSおよびタウの分子機能とモデル動物解析に基づいた病態解明

Fused in sarcoma (FUS) は、RNA 結合タンパク質で、選択的スプライシング、転写、RNA 輸送などの RNA 代謝を制御しています。FUSは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭葉変性症(FTLD)に遺伝的、病理学的に関与していることが知られています。変異FUSの過剰発現が引き起こす病態について多く報告がある一方で、FUSの機能喪失が神経機能障害や神経細胞死を引き起こすことを示唆する報告も多数存在します。私たちはこれまでに核内のFUSの欠損が選択的スプライシングや転写を阻害すること、細胞質、特に神経細胞の樹状突起スパインにおけるFUSの機能障害がmRNAの不安定化を引き起こす可能性があることを報告してきました。

アルツハイマー病など認知症に強く関わるタウタンパク質の遺伝子であるMAPTはexon10の制御はタウの代表的アイソフォームである3-repeat tauと4-repeat tauの生成に直結します。私たちはFUS が神経細胞の核内で別の RNA 結合タンパク質である SFPQと結合して複合体を形成すること、 FUS と SFPQ のどちらもが、タウアイソフォームのバランスを制御することも明らかにしました。さらに、FUS や SFPQ の機能喪失マウスモデルでは、このタウアイソフォームのバランスが崩れることで、情動の異常など FTLD に類似する高次機能の障害が起きることを明らかにしました(Ishigaki et al, Sci Rep, 2012; Fujioka et al., Sci Rep, 2013; Ishigaki et al, Cell Rep, 2017)。さらに、FUSの機能喪失は、主要なAMPA受容体であるGlutamate receptor 1 (GluA1) (Udagawa et al., Nat Commun, 2015) やSynaptic Ras GTPase-activating protein 1 (SynGAP1) (Yokoi et al., Cell Rep, 2017) などのmRNAの不安定化により樹状突起スパインの成熟に影響を与えることもわかりました。

こうした知見は、FUS機能の喪失、タウアイソフォームの変化、シナプス後機能の異常、が、FTLDやALSなどの病態を引き起こす可能性を示しています。

academist journalの記事
https://academist-cf.com/journal/?p=3636
脳科学辞典
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/Fused_in_sarcoma